木箱に収められ、厳重な梱包で到着した尖塔形のステンドグラス。
割れた絵付けピースを新たに制作するためお預かりいたしましたが、遠方のお客様でしたので輸送距離も長く、中を確認するまでドキドキでした。
到着後、速やかに梱包を解き全体を確認しました。
幸い、事前にお写真などでお伝えいただいていた修理箇所以外、破損もなく無事に到着いたしました!
少し話が逸れますが、易損品でもあるステンドグラス、特に濃い絵付けが施されたモノは光の通し方によって割れが見えないことがあります。
これは私たちの買い付けの時にも言えるのですが、現地で現物をよく見ても割れが見えず、実際に届いてから気付くといったこともあります。
絵付けとは、ガラス板の表面にグリザイユやエマイユと呼ばれるガラス質の粉(不透明の釉薬みたいなもの)で絵を描いて焼き付けます。
濃い絵付けほどその層が厚く、また絵付け面がステンドグラスの表(屋内側)になりますので、裏に位置するガラス板が割れていても見えない(気付かない)というのが主な理由です。
一方、裏面から逆光で見ると割れは確認できますが、設置場所や展示方法によって裏側に回れない場合、割れを探すのは難しいです。
特にアンティークや古い窓の場合、表面が汚れていたり曇ったりもしていますので、クリーニングして初めて見つけることもあります。
仮定の話ですが、上記の理由などからずっと見えて(気付いて)いなかった割れのあるステンドグラスをお預かりした場合、到着してからその割れに気付いた際は、それが元々割れていたのか、輸送中に割れたのか、もしくはお預かりしてから私たちが割ったのかが明確にできないため、お客様との信頼関係は本当に大切だとあらためて思います。
ちなみに、今回はご発送前に現状の詳細写真や状況をお伝えいただき、梱包の方法やその工程写真なども全て記録してお送りくださいましたので完璧なご依頼を頂戴いたしました。
よって、もしどこか違うところが割れたら僕の責任ですね(笑)
話を戻して、早速オリジナルのピースを外し、絵付け作業スタートです。
先ずは、全体の構図を取って線描きします。
窯で焼きます。
焼き上がると、細部を手直しします。
もう一度焼きます。
次に影になる部分を描きます。
そして焼きます。
影を入れるところと光を入れるところを描き分けて、少しずつ立体感を出します。
ここまでの作業で10種類ぐらいの筆を使って、出来る限りオリジナルの筆痕を再現します。
ついでに、経年で擦れた部分や顔料が弾かれた部分、液溜まり等、当時の職人さんがわざと残したのか偶然にそうなったのか判らない部分も可能な限り表現しました。
そして、もちろん焼きます。
最後にシルバーステインを入れて焼きます。
今回は2種類のシルバーステインを使用しましたが、全体の発色が弱く、その一つは着色しませんでした。
ですので、溶き方と焼成温度を変えてもう一度焼きました。
綺麗に発色しました。
最後に本体へ組み込んで完成です♪
※この後、ケイムのパテ埋めと溶接部分のパティーニング(酸化膜を張って黒くすること)を行い仕上げました。
個人的には、オリジナルより美しいんじゃないかと思っています(笑)
冗談はさておき、本日再び元の場所に設置され、お歓びいただけたとのご連絡を頂戴いたしました。
約1か月掛かりましたが、ご満足いただけて安心いたしました。
この度は、本当にありがとうございました。