先日、メンテナンスのご依頼をいただき、古い化学天秤を2台お預かりいたしました。
一つ目は大正期に作られたドイツ・ザルトリウス社製(秤量200g)、二つ目は昭和の初め頃の日本製(秤量100g)。
2台とも木製フレームのガラスケースに入り、パーツの数やそれぞれの仕様を含む形状は全く同じと言って良いぐらい酷似していましたので、ドイツのそれを模して当時の日本のメーカーが作ったものだと考えられます。
というのも、実はこの化学天秤はとある国立大学某研究室のモノで、旧制学校時代にドイツから輸入され実際の研究や実験で使用されていました。
現在ではもっと高精度なものがあるため使うことはないとのことですが、先代の教授から次の教授へと代々受け継がれてきており、当時の研究者の方々の努力や功績を今に伝える貴重なモノだと思います。
メンテナンス内容としては、日焼けや経年で変色した木部の再塗装、曲がった針の修正、真鍮の緑青・鉄の赤錆・アルミの白錆を除去して磨き上げなど、オリジナルの状態を保ちつつ全体のクリーニングとなります。
指示針の先数センチは、イメージで言うと一般的な縫い針をより引っ張って伸ばしたように細長く、アンビルの上で叩くことも出来ずとても気を使う作業でしたが、折ることなく修正いたしました。
分解するにつれ、酸化している箇所とそうでない箇所が一目瞭然ですね。
上の写真2枚は、Before(右) After(左)です。
天秤と言えば分銅セット。
これらも一つひとつ磨きます。
ただし、以前にも書いたかも知れませんが、磨く=削るなので「やりすぎると重さが変わるんじゃないだろうか?」との疑問も残ります。
写真の分銅は底と側面に腐食&酸化防止(?)の何かの塗膜が確認できましたので、上部のみ磨きました。
先が象牙のピンセット。
小学校の理科の授業で「分銅は素手で触っちゃいけません!」と担任の先生が言っていたのを思い出しました。
何の実験だったのかは微塵も覚えていませんが(笑
ちょっと話逸れまして。
イギリスのアンティークでもたまに目にするのですが、真鍮の鋳物に鉄製の木ビスが入り、ハンダ付けで固定されています。
理論上は溶着していないはずですが、古くて大きなステンドグラスの補強などと同様、へばりついているだけで100年以上もっていれば接着方法としては有効ですね。
遅々として進まず!(笑)
台座に使われているのは黒いガラスブロック。
調べる過程で『耐酸化ガラス』という文言も目にしましたので、薬品などにも強い生地かも知れませんね。
ガラスブロックの裏に付くパーツですが、これを手動で回転させることで天秤皿を上下に動かすことが出来ます。
エンジンなど、ピストンを動かす仕組みと似てますね。
ともあれ、いろんなところが動くので、磨いてから可動部全てに油を点して一通りの作業完了です。
で、本題はこちら。
一つの天秤のガラス台座が穴を起点に砕けて、本来下向きに付く脚が90度折れ曲がっています。
残ったピースの断面を合わせながら、可能な範囲で一つずつ元へ戻します。
無くなっているピースや不明な隙間は、色と表面の質感が似ているUVレジン系の樹脂など幾つか試したのですが、定着が悪かったため色付けした硬化型接着パテで埋めました。
前から見る分には、上にガラスケースの木枠が乗るので概ね隠れます。
背面からは、見る角度によって表面のクラック(割れ跡)は確認できますが、金属のビスが直接当たる貫通した穴の内側には補強と緩衝材を入れましたので脚はしっかり戻りました。
そして、木部を仕上げてメンテナンス完了いたしました☆
最後に、本品特定につきまして貴重なアドバイスをいただきました東洋計量史資料館様には、この場を借りてあらためて御礼申し上げます。